ターナーの絵画は、ロイヤル・アカデミー展において、衆人環視の的となって出展作品の最後の仕上げを行ったように、パフォーマンスの芸術でもあった。
ターナーは、17世紀の巨匠クロード・ロランの作品のあいだに掛けることを条件に、≪カルタゴを建設するディド≫と≪霧のなかをのぼる太陽≫をナショナル・ギャラリーに遺贈した。
画家の希望が実現し、両作品がヨーロッパ大陸の名画が並ぶロンドンのナショナル・ギャラリーでクロードの作品と並べて展示されているのを見ると、ターナーの76年の生涯は、それ自体、芸術的行為だったのだと思われてくる(イギリス美術を扱う国立美術館はテート・ブリテンで、ターナーの遺贈作品のほとんどは同館にある)。
しかし、このようなターナーの行為は、自己目的化したパフォーマンスではなかった。
見事なパフォーマンスを可能にしたのは、長年の制作を通じて身につけた驚異的な絵画技法と、画家としての才能、判断力であった。
藤田治彦(大阪大学大学院文学研究科教授)−序文より抜粋−
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